60才でフルマラソンに初挑戦する理由
私は約5年前から運動不足解消のためにウォーキングを始めました。デスクワークが多いことから、健康のために始めたのです。そのウォーキングがジョギングへと変化していき、距離が少しずつ伸びていった頃、ランニングの競技会で走ってみたいと思うようになりました。最初は10kmの大会に出場し、完走したもののふくらはぎを肉離れしてしまったのです。その時は、とても悔しい思いでした。肉離れを治してからもう一度10kmの大会に出て、今度は故障することなく最後まで走り切ることができました。
すると、今度はハーフマラソンを走ってみたいと思い、日々のランニングでも少しずつ長い距離を走れるように練習を重ね、手賀沼エコマラソンで21キロを完走することができました。このハーフマラソンで、私は初めてマラソンという競技の楽しさを知りました。1万人近くのランナーと一緒に走ることや沿道での応援に力をもらいながら走ることで、普段の練習以上の力が発揮できることを知ったのです。これは、不思議というより他はありません。レースの後半はかなり辛かったけれど、走りきった後の達成感や喜びはその辛さをふっ飛ばしてくれました。
スポーツと言えば相手と競い合うタイプのものが一般的ですが、マラソンはちょっと違うんです。しいて言えば、自分との戦いです。多くのランナーが自分と戦っている・・・そんな舞台で走るんです。大勢の応援してくれる人たちの歓声の中を走っていると、気持ちが奮い立つのです。そんな体験は、生まれて初めてでした。
その後、コロナ禍でマラソン大会が約2年間開催されることがなく、おのずとモチベーションも下がり練習もサボりがちになっていましたが、2022年からマラソン大会が再開されるようになり、私も再びランニングや筋トレに注力していきました。そして、2022年の秋頃、フルマラソンを走りたいと思い始めたのです。
特にこれと言った理由はありませんが、ハーフマラソンの次はやっぱりフルマラソン…という自然な流れだったように思います。また、60代以上のランナーが意外に多くて、もちろんフルマラソンを好タイムで走っているということにも勇気づけられました。自分も「老いに抗って、フルマラソンに挑戦してみよう」と決めたのです。
フルマラソンを目標に走り出す!
フルマラソンを目標にすることで、普段の練習にも熱が入りました。まず、月間200kmを目標に走る距離を伸ばしていきました。それまでは、月間130kmぐらいだったので、それなりに負荷がかかりましたが、1回の練習量が平均10kmから15km程度へとアップ。さらに、2時間走や3時間走も組み込んで、20〜30kmの距離に慣らしていったのです。30kmのレースにも出場しました。
つくばマラソンでは、フルマラソンについての科学的な知識などを身に着けたり、レベルに合わせて一緒に走るという「つくばマラソン練習会」があり、それにも参加しました。
フルマラソンを完走するためにいろんな練習をしてきましたが、それでも完走できるかどうか正直なところ不安でなりません。練習で一度でも42kmを走っておきたかったのですが、チャレンジして30kmでギブアップしたこともあり、気持ちの中で30kmの壁ができてしまっているのかもしれません。つまり、私にとって30kmが自己最長の走行距離なので、30kmから先は未体験なのです。
でも、不安の一方でワクワク感もあります。30kmを走るようになって、辛くなってからの「辛いなりの走り」の感覚を実感し始めたからです。「辛くても、走り続けた先には必ずゴールがある」ということです。42kmという未知の距離を走りきった後に、どんな景色が見えるのか!?それを想像するだけで、気持ちが高ぶってきます。
つくばマラソン練習会で学んだこと
「つくばマラソン練習会」に参加して、マラソンを走るにあたって必要な科学的な知識、練習方法、マナー等、さまざまなことを学びました。実技では、2回目に雨の中でロードを走ったことで、雨天のレースに対する苦手意識がなくなり、とてもいい経験となりました。
フルマラソンを走るうえで特に注意すべき点として、以下の3点を学びました。
- エネルギー切れを起こさないためにも、エイドでしっかり補給すること
- 自分に合ったペース感覚をみがく。前半で飛ばしすぎないこと。
- 目標タイムの目安は、ハーフマラソンの約2.3倍。
<練習会の参加賞 Tシャツ>
<練習会のプログラム> 2023年
走り始めた初心者ランナーに対してマラソン完走に向けた練習方法のサポートと、既に経験のあるランナーに対しても更なるステップアップを目指した情報を提供するためのプログラム。講義と実技で構成。実技では、タイムごとにグループ分けをし、それぞれの実力にあった練習を行います。1回2時間半で全4回。講師は、鍋倉賢治さん(筑波大学 体育スポーツ局体育統括長、体育系教授)。
第1回
・講義 マラソンの負荷とペース感覚
・実技 ビルドアップ走/ペース
第2回
・講義 持久力の向上
・実技 スピード練習/起伏走
第3回
・講義 脂肪を燃やそう!
・実技 ガチユル走(高強度+持続走)
第4回
・実技 ハーフマラソンに挑戦
練習会の最終日にはハーフマラソンのタイムトライアルを行い、1時間58分24秒で完走しました。このタイムから試算したフルマラソンの目安[ハーフマラソンの2.3倍]は、およそ4時間32分となります。
第43回つくばマラソンの大会概要
- 開催日 2023年11月26日(日)
- 主催 つくば市、筑波大学、茨城陸上競技協会、読売新聞社
- 種目 フルマラソン、10km
- スタート時間
・フルマラソン 9時〜9時20分スタート ※ウェーブスタート
・10km 9時55分スタート - 主会場 筑波大学陸上競技場
- 定員 フルマラソン 10,000人、10km 1,500人
大会当日
大会当日(2023年11月26日)、天気は曇。天気予報では気温は6度〜9度と予想されていました。大陸からの寒波がやってきて、一気に冬型の気候に変わってしまったのです。寒さが大の苦手…という私は、寒さ対策として考えていた全てのことを実行しました。
上半身は長袖のランニングウェアを2枚重ね着し、さらにフード付きパーカーを着て、その上からアスリートビブスを付けたTシャツを着ました。下半身は、ロングタイツを2枚重ね着してから短パンを履きました。そして、首にはタオルを巻き付け、手袋もしました。
会場に到着すると、霧のような小雨が降り出しました。まさか雨が降るとは想定していなかったので帽子を持ってこなかったので、手ぬぐいで頭を被って雨除けにしました。そして、スタートまではパーカーのフードを被りました。
早めにスタート場所へ行き、体を動かしながら時間を待ちます。今回のレースはウェーブスタートで、5回に分かれてスタートすることになっています。私は「G」グループだったので、第4ウェーブです。9時以降、第1〜3ウェーブの集団がスタートするたびに、少しずつ前進しながら、第4ウェーブが9時15分にスタートしました。
スタート直後は「飛ばしすぎないように…」ということを自分に言い聞かせながら、周りの集団に合わせて走っていました。しばらくは筑波大学内のロードを走り、みごとな紅葉を眺めながら走っていました。
5km地点、10km地点は順調に通過しましたが、キロ6分ペースのつもりがキロ5分40秒ペースとなり、少し速いペースになっていました。しかし、無理している感じはしなかったので、このペースを維持することにしました。15km付近から給水所でエイドが出始めましたが、食事をとる余裕はなく水分補給だけ行いました。
異変を感じたのは19km付近でした。右太もも前の筋肉がピクピクし始めたのです。肉離れの兆候かもしれないと思い、ストライドをほんの少し小さくしてペースを落としました。こんな所で肉離れを起こしてしまったら、ゴールできないと思ったからです。まずは完走することが第一目標だったので、ここで頑張りすぎないように…と自分に言い聞かしました。
そして、29km付近で疲労の波が一気に押し寄せてきました。足が前に出にくくなってきたのです。そこで、あえて走る足を止めて歩き出しました。そして、給水所のエイドでもらったプチシューをポケットから取り出して、口に頬張りました。実は、私はシュークリームが大好物だったので、ゴールしてから食べようと思ってポケットに入れていたのです。このプチシューが私に頑張る力をくれたような気がします。再び走り始め、30kmを通過。
そこからは、キロ7分以上でかなりの失速となりましたが、とにかく一定のリズムで一歩一歩前へ進むことだけを考えて走り続けました。とりあえず、次の給水所までは頑張ろう。そして、給水所でバナナやおしるこ、ゼリーなどを摂取してお腹を満たすと、また力が湧いてきて走り始めました。そんなことを繰り返しながら、「マラソンは30キロから…」という言葉を思い出し、「そうか、これがマラソンか〜」と腑に落ちた気がしました。
そして、35km地点を通過。「ここまで来れば、あとは歩いてもゴールできる」と思いましたが、歩く気にはなれませんでした。後続のランナーに次々と抜かされていきますが、それでも自分のペースで走りきりたい…という思いが強くなってきたのです。
40km地点を過ぎると、「よし、このままの調子でゴールしたい」という気持ちがさらに強くなり、少しペースがあがったような気がしました。42km地点を過ぎてグラウンドにさしかかり、ゴールが見えた時は嬉しかった。こうして、私は初めてのフルマラソンを完走することができました。
タイム(ネット) 4時間28分22秒
レース後記
今年、還暦を迎えて人生で初めてのフルマラソンを完走することができました。タイムは4時間半を切ることができました。はっきり言って上出来です。これまでの大会や練習でも30kmまでしか走ったことがなかったので、最後の最後まで走りきれるか不安でした。
案の定、30kmの壁にぶち当たりました。後は、失速してもかまわない。とにかく、自力でゴールまで辿り着くことだけを考えて走り抜きました。多くの人が「30キロ、あるいは35kmからが本当のマラソンだ」とか「限界が見えてからが、マラソンだ」と言っている意味がよくわかりました。自分でも「もう少しで足が動かなくなるかもしれない」と思いながらも、「それでも一歩ずつ前進すれば、いつか必ずゴールに辿り着ける」と自分に言い聞かせて走りました。「これがマラソンの醍醐味なんだ」と実感することができました。
改めて、マラソンの面白さを知ることができ、また、これからもフルマラソンに挑戦したいと思えることができました。